御師文化再生フォーラム@伊勢河崎商人館 角吾座

2023年03月12日(日) 御師文化再生フォーラム@伊勢河崎商人館 角吾座 (車、徒歩)

先日の記事でも「進物控」を紹介した和具屋(伊勢市河崎)さんに関する

【参考】

 

「和具屋家民俗調査」の中間報告があると聞いたので、会場である伊勢河崎商人館 角吾座を訪れた。

御師文化再生フォーラム

御師文化再生フォーラム

 

今回のフォーラムは、基調講演 神宮御師資料研究の現在地を紐解くと 活動報告 まちかど博物館・和具屋家民俗調査中間報告の2部構成。

 

基調講演 神宮御師資料研究の現在地 では

小林郁(皇學館大学 研究開発推進センター 佐川記念神道博物館 助教)さんにより、神宮御師資料研究の現状と課題が紹介された。

御師文化再生フォーラム

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御師文化再生フォーラム

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資料の種類は「文献史料」「民俗資料」「絵画資料」「遺構」「写真資料」などである。

所有者の観点で「御師家伝来」「コレクタなどの個人蔵」「博物館などの施設収蔵」「散逸・消失」と資料を分類した上で、それぞれの特徴と課題が紹介された。

「家」の資料である「御師家伝来資料」は点数が膨大で家政資料が含まれる。家によっては保存場所や保存方法が異なるため、虫やカビ、または災害により資料が破損する恐れがある。また、代替わり時には価値を見いだせない次世代により資料が破棄される可能性もある。

オークションや骨董店で購入された「個人蔵資料」は興味や関心に左右され、資料の法則性やまとまりが薄い。購入時の選別により本来の資料群が泣き別れ状態になることもある。しかし「散逸・消失」からの救出という意味では個人蔵も重要である。ただし、保存方法が十分ではなく劣化のリスクがある。また、存在が公開されていなければ研究機関の調査対象となりえない。

「施設収蔵資料」は旧御師家からの寄贈や購入により群としてまとまっている。これらは継続的に調査研究され、その結果は展覧会や調査報告書などで公開される。適切な状態で資料を保存するため、虫やカビとの戦いが続く。また、デジタルアーカイブやバーチャル博物館など進化する情報化への対応が必須となってきている。(皇學館大学でもデジタルアーカイブが構築されているそうだ。→ 皇學館大学デジタルアーカイブ )

資料は本来あるべき場所にあるべきもの。「虫やカビ、災害から守れない」と不安に思ったり、世代交代で資料が散逸・消失されるような場合は、いつでも神道博物館に相談してほしいとのこと。

虫やカビとの戦いについて語る小林さんの語気は強まり、身体に力が入る姿が印象的だった。

 

この後、外宮の権禰宜であり、御師であり、山田三方の構成員でもあった橋村家の資料研究について現状が紹介された。中世資料については天理大学の天理図書館に収蔵されているが、泣き別れと思われる近世〜近代の資料10,000点以上が最近になって発見された。泣き別れとなってはいるが、これで橋村家については中世から近代までの膨大な資料が揃ったことになる。

新たに発見された資料の調査研究はこれからで、国の研究費により【課題名】神宮御師橋村家の新たな発見に伴う信仰の地”伊勢”の総合的調査研究として進める。長期間に渡る広範な資料の出現により、御師と檀家の関係、檀家側の信仰形態、御師側の経営体制・御師の「家」について、神職・御師の二面性などが明らかになる可能性ある。

講演の最後、小林さんは次の言葉で終えた。

 

失われた資料:歴史は、二度と帰ってこない。

自らの手で「家」の歴史を失わないためにも・・・

  • 所持している資料をこまめに確認(資料が破壊されていないか、所定の場所にちゃんとあるか)
  • 親族や後継ぎとの資料保存に関する相談を密に(「家」の歴史を繋いでいく、もしもの時の対策)
  • 資料の管理が難しい場合、専門機関に相談(家の環境に合わえた保存方法のアドバイス、寄贈の受け入れ)

 

「神道博物館では、お持ちの資料管理に関するご相談を随意受け付けています。お困り、ご不安の際は、お気軽にお問い合わせください。」とのこと。

 


続いて、活動報告 まちかど博物館・和具屋家民俗調査中間報告 では、3名の発表があった。


 

山本翔麻(伊勢市文化政策課 学芸員)さん がボランティアとして参加している「和具屋所蔵資料悉皆調査」について報告した。

御師文化再生フォーラム

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調査準備として、図面をもとに建物内をエリア分割し、それぞれにアルファベットを付けた。さらに、各エリア単位で棚やタンスなども細分化して附番した。

調査では、対象エリアの全景を写真に撮り、各資料の略図を作成、寸法を測定、写真を撮影する。資料番号を附番し、作成したラベルを資料に固定する。膨大な資料に対して、この作業を繰り返すことになる。なお、撮影機器は個人所有のミラーレスカメラやLED照明を使用している。

現地調査後には、撮影データの保存、附番。エクセルへの一覧入力、さらには資料目録を作成する。さらには、考察を深めるため先行研究の調査が必要である。資料の分野が歴史・民俗・考古・美術工芸など多岐に渡るため、完成した目録が研究者の役にたてれば・・・

資料は数千点はあるので、現在のペースでは悉皆調査に3〜5年はかかる。

最近、中館遺跡で多数の器が発見されたが、こちらにある陶磁器資料が山田周辺での陶磁器事情を知る情報源になるのではないか。

 


 

中村元美(浜荻文庫 編集人)さんが、伊勢河崎 和具屋家 年忠食事献立に見る生活景 として一年に渡る調査結果を報告した。

御師文化再生フォーラム

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和具屋(大西家 主人 大西佐一さん)では、年中行事や食文化が受け継がれ維持されている。奥様・大西きみ子さんから聞き取った 作り方などが、次の7種類について紹介された。

  • 梅仕事、梅干しあれこれ〜梅の実りから夏の土用〜
  • クエン酸のかたまり 梅エキス〜初夏、もぎたての青い梅〜
  • 天王祭のいばら饅頭〜7月14日は早朝から大忙し〜
  • しょうろさんのお供え〜盆 8月13・14・15日〜
  • 麹付大豆のうちみそ〜一年ねかせて食べ頃〜
  • 迎春準備、おせちとお雑煮〜これぞ、和具屋の味〜
  • 節分 豆まき お参り〜立春前の河崎行事〜

また、、会場ではうちみそで作られた味噌汁が配られた。

 


 

丸岡正之(NPO法人 旧御師丸岡宗大夫邸保存再生会議)さんが、河崎陶磁器商和具屋 所蔵古文書調べ の結果を報告した。

御師文化再生フォーラム

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萬控帳(明治四年)には、正月から季節ごとの行事などが続く。

正月には帳面の更新に必要な紙の量が帳面単位で記され、さらには進物用の紙だろうか、複数の宛先が記される。さらには「手預状」「節気前大根漬覚」「餅の準備」「船へせち遣之覚」「目洗薬」「せんしゃく薬」「かっけ妙薬」「鼠喰い付かれ妙薬」「おおだんの妙薬」「切りきず」「まむしに喰いつかれた」「味噌仕込覚」「大根漬覚」などが記される。

別の文書として、物品運送状(大正九年)には、売り渡す商品の種類、数量、買主、荷を運ぶ船主の受取印が定型で記帳されている。

最後に参考情報として現在でも和具屋で使用している陶磁器商の符牒が紹介された。

【参考】 これは、古文書の会でも話題となったものだ。

 

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